Adobe Illustratorの使い方

Adobe Illustrator(イラストレータ)は、ベクターイメージドローソフトだ。とりあえず「多機能なPowerpointみたいなもの」と思えば良い。理系では、ポスターを作るのに良く使われるが、パンフレットなど、Adobe Illustrator形式(.ai)での入稿もあったりするので、簡単な使い方を知っておいて損はない。しかし、イラストレータは非常に多機能であり、そのすべてを説明することはできない。以下では、通常使うにあたって気をつけるべきことと、特にPowerPointとの使用感との違いについて説明する。

ファイルについて

アートボードサイズ

イラストレータでは、描画する領域を「アートボード」と呼ぶ。最初に、アートボードのサイズなどを決める必要がある。イラストレータを起動し、「ファイル」→「新規」を選ぶと「新規ドキュメント」画面になる。ここでサイズを決めることができる。サイズのプリセットとして「A4」などが現れる。しかし、多くの場合ポスターで使うのはA0、もしくはA1であろう。特に大判プリンタでは「A0ノビ」と呼ばれるサイズが使われることが多い。これはA0にトンボと呼ばれる印をつけるために余白を設けたもので、サイズは幅914mm、高さ1292mmである。「A0ノビ」の紙に「A0」で印刷してしまうと余白が出てしまって後で裁ち落としをする必要があるため、「A0ノビ」の紙には「A0ノビ」で印刷した方がよい。

というわけで、まずは「A0ノビ」で作成してみよう。「プリセットの詳細」に「ポスター」と記載し、幅914mm、高さ1292mm、裁ち落としは全て0mmで作成しよう。

すると白い画面が出てくる。この上で様々な作業をするが、まずはファイルを保存しよう。最初に「コンピュータまたはCreative Couldに保存」と出てくるが、コンピュータに保存することにして、「次回から表示しない」をチェックしてから「コンピュータに保存」を選ぶ。

すると、デフォルトで「ポスター.ai」というファイルになっているはずだ。この*.aiという拡張子がAdobe Illustrator形式であり、全ての編集情報を持っている。保存時に「Illustrator オプション」が出てくる。ここはあまり気にせず、デフォルトのままでよい。

PDF出力の注意

次に、PDFで保存してみよう。ここでは、例えば印刷屋にPDF入稿することや、大判プリンタにPDFで持っていくことを想定する。「ファイル」の「別名で保存」で、出てきたダイアログから「ファイルの種類」を「Adobe PDF (*.PDF)」にしよう。ここで「Adobe PDFを保存」ダイアログが出てくるが、これをデフォルトのままで保存するとトラブルが起きやすいので、修正が必要だ。

まず、「一般」のオプションで「Illustratorの編集機能を保持」「サムネールを埋め混み「上位レベルのレイヤーからAcrobatレイヤーを作成」等にチェックがついているが、これらは全て外しておく。

次に「圧縮」について、カラー画像やグレースケール画像が「ダウンサンプルしない」になっているはずだ。特に写真を多く含むポスターでは、このままの設定ではファイルサイズが非常に大きくなることがある。適当な手法「ダウンサンプル(バイリニア法)」を選び、ある解像度(ppi)を超える場合に、どこまで落とすかを指定する。これは何度も試して、出来上がりのPDFの解像度が許容範囲か確認するしかない。

保存すると「Illustratorの編集機能を保持」をチェックせずに保存すると編集機能が使用できないよ、といったメッセージが出るが気にしなくてよい。

さて、このまま「PDF」で保存すると、左上にあるファイル名が「ポスター.pdf」になったはずだ。これに気づかないまま続けて修正をしがちなので気を付けたい。修正をするなら再度「ポスター.ai」を開く必要がある。

「別名で保存」をすると、拡張子がPDFに変わった後に気づかないまま編集を続けてしまう可能性があるため、PDFを出力する場合は「複製を保存」を選ぶと良い。「複製を保存」した場合は、開いているファイルは*.aiファイルのままなので混乱が起きにくい。

画像の埋め込み確認

イラストレータに画像ファイルを入れたい時、ドラッグアンドドロップで入れることが多いだろう。適当な画像をデスクトップに保存し、イラストレータにドロップしてみよう。すると、画像のプロパティに「リンクファイル」と表示される。これはAIファイルには画像の場所のみ保存している状態であり、AIファイル自身には画像ファイルは含まれない。そのままPDFにすると、リンクのままとなるため、印刷時に「画像が見つからない」というエラーとなる。

これを防ぐには、画像をファイルに「埋め込む」必要がある。画像ファイルをクリックして出てくる「プロパティ」の下の方に「クイック操作」があり、そこで「埋め込み」をすれば埋め込むことができる。

多くの画像ファイルを扱うと、埋め込み忘れが生じがちだ。その場合、PDFに保存する前に「ウィンドウ」から「リンク」を選び、「リンクウィンドウ」を表示すると良い。「リンク」に画像一覧が表示されるが、右側に「鎖マーク」がついていたら「外部リンク」状態だ。「リンクウィンドウ」で鎖マークのついた画像を選び、下の「リンクへ移動」ボタンを押すと、アートボードで当該画像が選択状態になる。この「リンク」画面が表示されたまま「画像」の「埋め込み」をしてみよう。鎖マークが消えたはずだ。

「PDFに保存する前にリンクを確認する」癖をつけておきたい。

オブジェクト

イラストレータはベクターイメージドローソフトであり、全てのデータが「線分」で構成されている。この線分の集まりを「パス」と呼ぶ。「オブジェクト」は「パス」の集合で構成されている。線分は、点をつなぐことで構成されている。その点を「アンカーポイント」と呼ぶ。例えば円や長方形はどちらも4つのアンカーポイントで構成されている。

色と線

オブジェクトは線分である「パス」から構成されており、それらの「塗り」と「線」を指定することで「塗りつぶし」や「周りの線」の色を指定できる。イラストレータを起動すると左に矢印やペンが書かれたツールバーが表示されるはずだ。まずはそこから「長方形ツール」を選ぼう。

この状態で、アートボード上でマウスをドラッグすると、インタラクティブに長方形を作ることができる。また、「長方形ツール」が選択された状態でアートボードをクリックすると、幅と高さを入力し、指定のサイズの長方形を作ることができる。

アートボードに長方形を置いたら、塗りと線の色を変えてみよう。先ほどの長方形が選択された状態でツールバーの「塗りと線」をクリックすると、色を変更できる。ちなみに「白字に赤の斜め線」が「無し」、つまり透明だ。

何も選択されていない状態で「塗りと線」の色を修正すると、「次に描画するオブジェクト」の塗りと線の色がそれになる。

いくつか長方形を描いたら、それらを削除しよう。ツールバーの「選択ツール(V)」を選ぼう。よく使うので、キーボードショートカット「V」を覚えておくと良い。選択ツールになっている状態でクリックしたり、マウスをドラッグすることでオブジェクトを選択できる。その状態でDelキーを押せば削除できる。

アンカーポイントの修正

オブジェクトが線分でできており、線分の性質がアンカーポイントで決まることを確認するため、円を修正してハートマークを作ってみよう。まずはツールバーから「楕円形ツール」を選ぼう。おそらく最初は「長方形ツール」が表示されているため、そこをクリックで長押しすると「楕円形ツール」が選べる。しかし、キーボードで「L」を入力した方が切り替えが楽だ。ツールバーの選択の切り替えはキー入力の方が楽なので、よく使うものは覚えておくとよい。

円を一つ置こう。普通にマウスドラッグすると楕円になるが、「シフトキーを押しながらドラッグ」で円になる。後でハートにするので、塗りつぶしを赤、線を黒にしておこう。

この状態で「ダイレクト選択ツール(A)」を選ぶ。これは、オブジェクト上のパスやアンカーポイントを選択できるツールだ。カーソルが黒いと全体選択ツール、白いとダイレクト選択ツールである。「A」と「V」で切り替えられるので覚えておきたい。

ダイレクト選択ツールを選んだ状態で、円の一番したのアンカーポイントを探す。マウスオーバーで「アンカー」と出てくる。クリックすると「アンカーポイント」に「ハンドル」が出てくる。このハンドルがパスの曲率を決める。マウスでハンドルのサイズを0にしよう。円の下が尖るはずだ。さらに、サイドのアンカーポイントのハンドルをまげて、尖りを大きくしよう。

次に「アンカーポイントツール(Shift+C)」を選ぶ。そして、円の上部のアンカーポイントを選び、右方向にドラッグすると、ハンドルが伸びる。そのまま右のハンドルの先を右上に引っ張ろう。ハートの右側が出来上がる。次に、一度「ダイレクト選択ツール(A)」を選び、円の上部のアンカーポイントを選択して、左側のハンドルを表示してから、「アンカーポイントツール(Shift+C)」を選択し、左側のハンドルを左上にひっぱればハートの完成だ。概形ができたら、「ダイレクト選択ツール(A)」でハンドルをいじることで形を修正できる。

なげなわツール

パスはアンカーポイントを結ぶ線分であるため、アンカーポイントをつなぐことで新たなパスを作ることができる。これを利用して、円二つを接続してカプセルっぽい図形を作ってみよう。

まずは円を二つ、左右に配置しよう。その状態で「ダイレクト選択ツール」にして、円の半分を選択して削除する。お互いに向かい合う半円ができたら「なげなわツール(Q)」を選択し、半円の上の点が両方含まれるように領域をドラッグする。二つのアンカーポイントが選択できたら、「オブジェクト」の「パス」の「連結(Ctrl+J)」を選ぶ。すると、二つのアンカーポイントの間を結ぶパスが出来上がる。同様に下側もパスを接続すると、カプセルの完成である。

ペンツール

「ペンツール (P)」を使うと、パスの上にアンカーポイントを増やしたり、何もないところにアンカーポイントを置いたりすることができる。これを利用してパックマンを描画してみよう。

まず円を描画する。この円は上下左右4つのアンカーポイントで構成されている。円が選択された状態で「ペンツール(P)」にして、円弧の中央をクリックするとアンカーポイントを増やすことができる。その右上の円弧と、右下の円弧の中央あたりにアンカーポイントを増やそう。そして「ダイレクト選択ツール」で「右」のアンカーポイントを左にドラッグすると、唇に丸みを帯びたパックマンができあがる。あとは「ダイレクト選択ツール」でハンドルを調整すればパックマン画像を作ることができる。

パスファインダー

複数のオブジェクトを、合体させたり切り抜いたりできる。

例えば正方形を作り、半分削除して45度回転させ、それと長方形を重ねて両方選択した状態で、「ウィンドウ」の「パスファインダー」を表示、形状モードから「合体」を選ぶと、矢印の完成だ。

他にも「前面のオブジェクトで後ろをクリップする」ことができる。たまに使いたくなるので覚えておくと良い。

効果

オブジェクトには様々な効果を載せることができる。よく使うのは「ぼかし」であろう。「スターツール」で星を描画しよう。線は無し、塗りは黄色にする。この状態で「効果」から「ぼかし」「ぼかし(ガウス)」を選ぶとぼやける。他にも効果は多数あるので試してみると良いだろう。

レイヤー

PowerPointでも「最前面/最背面に移動」などがあったように、オブジェクトには「上下」の重なりがある。この順番を決めるのがレイヤーだ。デフォルトで右側に「レイヤーウィンドウ」がある。アートボードにオブジェクトを作成すると、現在のレイヤーに「サブレイヤー」が作成され、そのサブレイヤーに配置される。このサブレイヤーの順序をマウスで入れ替えることで「重なり順序」を変えることができる。

レイヤーもしくはサブレイヤー単位で可視化、編集のロックが可能だ。左にある「目」マークは可視化マークであり、クリックすると見えなくなる。背景を一時的に見えなくしたりするのに使う。さらに、ロックするとマウス選択などの対象外となる。やはりこれも背景に使うと便利だ。

レイヤーはデフォルトで一つだが、いくつでも増やすことができる。ポスターを作る際は、背景などを背景レイヤーとして作成し、ロックしておくと便利だろう。