3. Temperature

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3.1 Maxwell Distribution

温度とは何であろうか?我々は日常的に「熱い/冷たい」「暑い/寒い」と、温度を感じており、温度という量が自然に存在することに疑問を抱かない。しかし、以前に述べたように分子動力学法における変数は運動量\(p_i\)と座標\(q_i\)のみであるから、この変数の組\(\{p_i, q_i\}\)で温度を定義しなければならない。

広く受け入れられているのは「温度は運動エネルギーに比例する」という事実を利用した定義だ。三次元\(N\)粒子系を考えると、分子動力学法における温度\(T\)は運動エネルギーを\(K\)として

\[ T = \frac{2K}{3N k_\mathrm{B}} \]

という量の時間平均で定義される。ただし、\(k_\mathrm{B}\)はボルツマン定数である。簡単のため、全ての粒子の質量\(m\)が等しいとすると、運動エネルギー\(K\)の定義は

\[ K = \sum_i \frac{p_i^2}{2m} \]

で与えられる。この量が温度と結びつくのは、運動量がマクスウェル分布に従うことから説明される。すなわち、温度\(T\)の粒子系における運動量分布は、いわゆるMaxwell分布

\[ f(\{p_i \}) \propto \exp\left( \frac{\sum_i p_i^2}{2m k_\mathrm{B} T} \right) \]

に従うことが知られており、ここからいわゆるエネルギー当分配則

\[ \left< \frac{p_i^2}{2m}\right> = \frac{1}{2} k_\mathrm{B} T \]

が導かれる。これを認めれば運動エネルギーと温度が結びつく、というストーリーである。

3.2 Canonical Ditribution

さて、マクスウェル分布は観測事実であるが、これを別の基本原理から「導く」ことを考えてみよう。

まず、ハミルトニアンを議論の出発点としよう。三次元\(N\)粒子系で、全ての粒子の質量が等しい場合は、以下のようなハミルトニアンになるだろう。

\[ H = \sum_i \frac{p_i^2}{2m} + V(\{q_i\}) \]

ここで、\(V(\{q_i\})\)は座標にのみ依存するポテンシャル関数とする。さて、\(p_i\)と、\(q_i\)が張る位相空間を\(\Gamma\)としよう。この\(\Gamma\)上に、分布関数\(f(\{p_i, q_i\})\)を定める。これは、位相空間上の点\(\{p_i, q_i\}\)における系の存在確率をあらわす。したがって、分布関数\(f\)は規格化されていなければならない。

\[ \int f d \Gamma = 1 \]

次に、天下りだが、この分布関数の対数をとったものの平均に\(- k_\mathrm{B}\)をかけた量を考え、\(S\)と名前をつけよう。

\[ S = -k_\mathrm{B} \int f \ln f d \Gamma \]

もちろんこの量はエントロピーであるが、それがどういう量かはよくわからない。さて、なぜだかわからないが、あなたははこの\(S\)という量を最大化したくなった。いま、系のエネルギーが\(E\)であるとしよう。この条件で\(S\)を最大化するには、規格化条件をラグランジュの未定乗数法で扱って、

\[ I = \alpha \int f d \Gamma + \int f \ln f d \Gamma \]

の変分をとればよい。計算の便利のために、ラグランジュの未定乗数\(\alpha\)にボルツマン定数を含めている。変分条件\(\delta I = 0\)よりただちに、

\[ f = \frac{1}{\Omega} \]

が導かれる。ただし、\(\Omega\)は規格化条件から決まる以下の量である。

\[ \Omega = \int \delta(H-E) d \Gamma \]

これは等エネルギー面の面積に他ならない。エネルギー一定条件のもとで\(S\)分布関数が一定になることが導かれた

ミクロカノニカル分布であり、ミクロカノニカルであれば分布関数は一定である、ということに対応している。

ミクロカノニカルでは、エネルギー一定条件を考えたが、これを少し緩めて、エネルギーの期待値一定の条件にしてみよう。

分布関数\(f\)により、この系における物理量の期待値\(\left<A\right>\)を以下のように定義する。

\[ \left< A \right> \equiv \int A f d \Gamma \]

ハミルトニアン\(H\)の期待値が内部エネルギー\(U\)である。

\[ U \equiv \left< H \right> = \int Hf d \Gamma \]

分布関数\(f\)が規格化条件を満たし、内部エネルギー\(U\)が一定である、という条件で\(S\)を最大化することを考える。すると、ラグランジュの未定定数\(\alpha, \beta\)を用いて、

\[ I = \alpha \int f d \Gamma + \beta \int H f d \Gamma + \int f \ln f d \Gamma \]

の変分を取ればよい。先ほどと同様、後の便利のために\(\alpha, \beta\)にボルツマン定数を吸収させ、かつ\(S\)に関する条件式に負符号をつけていることに注意(これが自由エネルギー\(F = U - TS\)になるように、\(S\)の定義の負符号と変分の負符号がキャンセルするように選んでいる)。変分条件\(\delta I = 0\)より、

\[ \alpha + \beta H + 1 + \ln f = 0 \]

ここからただちに分布関数が

\[ f = \mathrm{e}^{-(\alpha + 1)} \mathrm{e}^{-\beta H} d \Gamma \]

となる。規格化条件から

\[ \mathrm{e}^{\alpha + 1} = \int \mathrm{e}^{-\beta H} d \Gamma \equiv Z \]

\(\alpha\)が求まるため、最終的に分布関数は

\[ f = Z^{-1} \mathrm{e}^{-\beta H} \]

となる。これはボルツマン重みに従う分布、すなわちカノニカル分布に他ならない。

さて、ここで\(S\)をエントロピーだと思うことにしよう。\(S\)\(U\)の間に熱力学関係式

\[ dS = \frac{dU}{T} \]

が成り立つことを要請すると、残るラグランジュの未定定数\(\beta\)

\[ \beta = \frac{1}{k_\mathrm{B} T} \]

と、温度と結びつく。このストーリーでは、「まず世の中にはエネルギー\(U\)とエントロピー\(S\)というものが存在し、\(U\)一定の条件で\(S\)を最大化しようとするとカノニカル分布が導かれ、エネルギーとエントロピーの熱力学関係式を要請すると、ラグランジュの未定定数\(\beta\)が逆温度であることがわかる」という流れになっている。

3.3 Generarized Virial Theorem

さて、先程のような温度の導入をすると、運動エネルギー以外にも温度の定義ができることがわかる。

カノニカル分布を持つ系において、ビリアルと呼ばれる量\(p_i \partial_{p_i} H\)を考えてみよう。このビリアルについて、以下の関係が成り立つ。

\[ \left<p_i \frac{\partial H}{\partial p_i} \right> = \frac{1}{\beta} \]

これは部分積分を使うだけで容易に証明できる。

\[ \begin{aligned} \left<p_i \frac{\partial H}{\partial p_i} \right> &= Z^{-1} \int p_i \frac{\partial H}{\partial p_i} \exp(-\beta H) d \Gamma \\ &= Z^{-1} \int \frac{p_i}{(-\beta)} \frac{\partial}{\partial p_i} \left(\exp(-\beta H)\right) d\Gamma\\ &= \frac{Z^{-1}}{\beta} \int \frac{\partial p_i}{\partial p_i} \exp(-\beta H) d \Gamma\\ &= \frac{1}{\beta} \end{aligned} \]

ここで、ハミルトニアンの定義から

\[ p_i \frac{\partial H}{\partial p_i} = \frac{p_i}{m} \]

であるから、等分配則

\[ \left< \frac{p_i}{2m} \right> = \frac{1}{2 \beta} \]

が導かれた。

さて、導出を見ると、\(p_i\)\(q_i\)に変えても全く同様なことができる。

\[ \left<q_i \frac{\partial H}{\partial q_i} \right> = \frac{1}{\beta} \]

運動量のビリアルから定まる温度を 運動温度 (Kinetic Temperature)座標から決まる温度を状態温度(Configuration Temperature) と呼んで区別することがある。この二つの温度は、系がカノニカル分布に従う場合、すなわち平衡状態にある場合は一致するが、一般に非平衡状態においては一致しない。

ここまでの議論において、ビリアルの期待値から温度が出てくるのは、要するに分布関数が\(\exp(-\beta H)\)という形をしていることと部分積分を使っているだけなので、さらに一般化することができる。位相空間\(\{p_i, q_i\}\)をまとめて\(\{z_i\}\)と表記しよう。これは運動量と座標をまとめて連番を振ったもの、つまり、

\[ \{z_i\} = \{p_1, p_2, \cdots, q_1, q_2, \cdots \} \]

である。何か適当な量\(B_i\)と、\(\partial_{z_i} H\)との積\(B_i \partial_{z_i} H\)を考える。部分積分により、

\[ \left<B_i \frac{\partial H}{\partial z_i} \right> = \frac{1}{\beta} \left<\frac{\partial B_i}{\partial z_i} \right> \]

さて、いま位相空間\(\Gamma = \{z_i\}\)中に、ベクトル場\(\vec{B}\)が定義されているとしよう。先ほどの式はそれぞれの座標成分\(z_i\)ごとに成り立つので、全ての成分について和をとると、以下のようにベクトルの形で書くことができる。

\[ \left<\vec{B} \cdot \nabla H \right> = \frac{1}{\beta} \left<\nabla \cdot \vec{B} \right> \]

この式の左辺を一般化ビリアルと呼ぶ。\(\vec{B}\)が運動量成分しか含まない場合、すなわち

\[ \vec{B} = (p_1, p_2, \cdots, p_N, 0, \cdots, 0) \]

の場合に導かれる温度は運動温度となり、いわゆるエネルギー等分配則を表す。逆に、\(\vec{B}\)が座標成分しか含まない場合は状態温度を導く。