はじめに

4月になり、新たに研究室を主催する人も多いでしょう。研究室運営は自分の出身研究室のやり方を参考にすることが多いと思いますが、助教を経験している場合は、その研究室のやり方も参考にするでしょう。しかし、研究室運営について詳細に知っているのはせいぜい2、3研究室くらいで、「このやり方が普通なんだろうか?」と不安になることもあるでしょう。そこで、私の研究室の運営方法について紹介してみようと思います。

私の研究室について

私は2019年に研究室を構えましたが、2020年から学生が配属されたため、実質的には6年目の研究室です。これまでに24名が卒業し、現在17名が所属しています。数値計算がメインの理論の研究室です。研究室クラスタとスーパーコンピュータが主要な研究ツールとなります。卒研配属が毎年5名程度、そのうち4名程度が大学院に進学し、多くが修士で卒業するため、定常状態で13〜15名程度が研究室に所属することになります。

私が研究室を構えてからすぐにコロナ禍となったため、ほぼ全ての研究活動がオンラインとなりました。現在でも、オンラインメインで研究活動を行っています。

研究活動

研究室の日々の活動は、大きくわけて「研究室ミーティング」「輪講」「1on1ミーティング」で構成されています。

研究室ミーティング

週に1度、全員参加のミーティングです。Zoomによるオンラインで実施しています。メインの活動は論文紹介です。一度に2名が発表します。一人概ね30分程度、二人で1時間程度が目安です。研究室のメンバーは14名程度のため、7週に一度は発表があたることになります。紹介論文は、卒研生、修士1年の途中くらいまでは私が提案しますが、慣れたら自分で紹介用論文を探してもらいます。また、研究の進み具合によっては、論文紹介ではなく研究の進捗報告をすることもあります。学生が研究室配属された直後に、私が「論文紹介のやり方」を説明してから、模範演技として論文紹介をしています。

卒業論文や修士論文の最終報告会の前は、発表練習会を行います。また、中間発表もあるため、その直前の研究室ミーティングも発表練習会とします。修士2年生は日本物理学会で発表するため、その直前は学会発表練習会にあてます。

輪講

週に1度、博士課程の学生以外が参加します。こちらもZoomによるオンラインで実施しています。一つ教科書を決め、週に1名ずつ担当箇所を発表します。一番最初だけ私が模範演技として発表し、以後は学生が担当します。概ね10週に一度回ってきます。

これまでに読んだ本リストは以下の通りです。

  • 2025年度 「解析力学 (渡辺悠樹 著)」
  • 2024年度 「相転移・臨界現象の統計物理学 (西森秀稔)」
  • 2023年度 「統計力学 (湯川論 著)」
  • 2022年度 「パターン認識と機械学習 (C. M. ビショップ 著)」
  • 2021年度 「熱力学 (佐々真一 著)」
  • 2020年度 「統計力学 (田崎晴明 著)」

本の選び方について、最初はいくつか候補を出して学生さんに選んでもらったりもしていたのですが、今は僕が(研究室ミーティングに参加してくださっている准教授の方と相談して)決めてしまっています。

1on1ミーティング

メインの研究活動です。学生は毎週決まった時間、私と話す機会があります。例えばある学生は月曜日の11:00 - 11:30、別の学生は木曜日の13:00 - 13:30など、最低毎週30分が確保されています。ここで、これまでの進捗を聞き、質問や今後の研究の進め方について相談します。私の研究室ではチームは作らず「1人1テーマ」としているため、議論は常に一対一です。学生は対面かZoomによるオンラインを選べます。

なお、進捗があまりない場合など、話すことがあまりない場合は、スキップします。ただ、どんなに進捗がなくても、二週続けてのスキップはしないようにして、顔を見て元気かどうか、何か詰まっていることはないか確認しています。

1on1ミーティングの後は、ミーティングのサマリをSlackに残すようにしています(後述)。

Slackの利用

研究室で使っているツールはいくつかありますが、最も重要なツールがSlackです。全体のミーティングのアナウンスなどを流す#generalや、雑談などを流す#randomなどがありますが、最も重要なチャンネルが「z-チャンネル」です。

例えば「学生太郎」という名前の学生がいたら、「z-学生太郎」という名前のチャンネルを作ります。そのz-チャンネルには私とその学生の2名が参加します。ここで研究の相談や論文の添削、スライドの修正などを行います。1on1ミーティングのサマリなどもここに貼ります。毎週の1on1ミーティングの後、サマリをここに書きます。次の1on1ミーティングの前に、そのサマリを読んで、その学生の現状を把握し、進捗を確認します。1on1ミーティングのサマリは、最初は私が、慣れてきたら学生さんに書いてもらうようにしています。

重要なのは、このz-チャンネルをパブリックにしていることです。普段そのz-チャンネルをチェックするのは当該学生と教員である私だけですが、いつでも他のメンバーのzチャンネルを見ることができます。これにより、同期が教員からどんな指導を受けているか、全て見ることができます。また、先輩のz-チャンネルを見ることで、中間発表や卒論発表のスライドはいつ頃からどのように準備しているのか、それに対して私からどのようなコメントを受けているのかも全部見ることができます。これによって、オープンな研究室運営を心がけています。

ちなみに、z-チャンネルは、もともと「times」という文化に起因しています。timesとは、社内チャットなどで自分だけが参加するつぶやきの場で、社内Twitterのような場所です。私はばんくしさんのこのブログポストで知りました。timesチャンネルは、「times_名前」というチャンネルを作り、そこに現在の気分などをポストし、他のメンバーは「気が向いたら」反応する、というものです。

また、timesチャンネルでは接頭辞は「times_」でしたが、これを「z-」にしたのがz-チャンネルです。この接頭辞の起源はどこだか忘れましたが、アルファベット順にチャンネルを並べた時に下の方に来るように接頭辞をz-にしていたようです。

timesチャンネルは「パブリックだが、参加者が少なく、他の人もいつでも見ることができる」という性質を持っており、ここから私は研究のメインチャンネルとしてz-チャンネルを使うようになって現在にいたっています。

ハンズオン

研究室に新たに配属された学生に向けて、ハンズオンを実施しています。gnuplotやジョブシステム、可視化ツールの使い方など、毎週1時間程度のハンズオンによって研究活動に必要なスキルを身に着けてもらっています。

ハンズオンの内容は以下に公開しています。

数値計算用PCセットアップ資料

どんなペースで何についてハンズオンを行っているかについては、ハンズオンの記録にまとめています。概ね6月までに一通りのハンズオンを終え、卒論を書き始める11月に卒論執筆ハンズオンを実施しています。

参考:卒論の書き方

発表など

私の研究室では、在籍中に最低一度の学会発表を行います。私のメインの活動場所が日本物理学会であるため、日本物理学会での発表を行うことがほとんどです。日本物理学会は3月と9月に大会がありますが、研究の進捗によって、M1の終わりの3月か、M2の9月に発表を行っています。

その他に良く参加する研究会として、4月にある東京大学物性研究所共同利用報告会があります。メインの研究ツールとして物性研究所の共同利用スーパーコンピュータを使っているため、そこで修士2年生がポスター発表をしています。

他にも分子シミュレーション討論会やソフトマター若手の会など、興味のある研究会があれば自由に参加して良いことにしています。旅費もできる限りサポートしています。その他、希望者は研究インターンなどにも参加してもらっています。

その他のツール

Google Calendar

研究室ミーティング、ハンズオン、輪講、1on1などの情報を共有するためのカレンダーを作り、共有しています。特に1on1ミーティングは(私に会議が入るなどして)頻繁に予定が変わるため、「いまこのGoogle Calendarにある内容が渡辺が把握している予定」ということになります。例えば学生はGoogle Calendarを見て、リスケをしたはずの予定がリスケされていないなどに気づいたら、z-チャンネルを通じて連絡をしてもらっています。

esa

研究室の内部Wikiとして、esaを、アカデミックプランにより無償で使わせていただいています。研究室ミーティングの発表者や輪講の順番管理している他、過去の卒論や修論などをアップロードしてあります。学生は主にここを見て、自分の論文紹介の順番がそろそろ来そうだな、とか確認しています。また、研究で近いテーマの先輩の卒論や修論を確認するのにも使います。

GitHub

うちの研究室では卒論・修論はLaTeXで書きます。この時、学生と教員で論文を共有するのにGitHubを使っています。OverLeaf(+Git連携)を使う研究室も多いようですが、なんとなく僕の趣味でローカルでTeXをビルドできるようにしています。

また、投稿論文も同様にGitHubで管理、共有しています。

研究室独自の話

以下は私の研究室独自の話で、参考になるかわかりませんが、一応「こうやってるよ」という意味で書いておきます。

研究テーマの決め方

多くの場合、研究室ごとに研究プロジェクトが走っており、そのプロジェクトに参加する形で学生の研究テーマが決まるのではないかと思いますが、私の研究室では「1人1テーマ」「研究テーマは自分で決める」ことを原則としています。配属後に大雑把な希望を聞いて、それに対して私が研究テーマを提案し、それに対して学生がやってみたいことを決め、関連論文を読みながら研究テーマを決めていく、というプロセスをとっています。研究テーマの進捗によっては途中で変えることもあります。いずれにせよ「1人1テーマ」なので、学生さんは自分の研究に対して自分で全責任を追うことになります。学生さんは論文の筆頭著者として、教員である私はその共同研究者として関わります。複数人でプロジェクトを作るのに比べて研究成果が出るまでに時間がかかることが多いですが、その分、研究テーマについて責任感が強くなりやすいのかな、と思っています。

研究室イベントについて

私の研究室では、(私があまり好まないこともあって)イベントはほぼありません。例えば研究合宿などもしませんし、BBQやスポーツ大会への参加もありません。

飲み会は年に一度だけ、3月に歓送迎会をしますが、それも参加は任意です。

学位論文について

卒業論文発表会、修士論文発表会が終わり、審査に合格したら、卒論と修論を2部ずつ製本しています。1部は研究室保存用、もう1部は学生さんの保護者の方に手紙を添えて送る用です。

製本した卒論、修論に手紙を添えて保護者さんに送るというのは、(たしか)お茶大の先生がそういうやり方を紹介しているのを見てマネして始めたものです。手紙には、研究の背景、意義、学生さんの貢献の他、その学生さんの研究室での様子を書いています。結構喜ばれるので、おすすめです。

まとめ

私が着任してすぐにコロナによりロックダウンとなったため、オンラインが前提の研究活動をこれまで続けてきました。それで本当に上手く行っているのかは自信がないですし、現在のやり方が最善だと言うつもりもありませんが、とりあえず研究室は回っています。部屋に学生が集まることは少ないですが、Slackのz-チャンネルにより他の人の研究活動や教員とのやり取りは全てオープンになっており、全員のz-を読む学生さんや、自分のz-しか見ない学生さんなど様々です。

また、私は「論文の読み方」など基本的なスキルが暗黙知とならないように、研究室のガイダンス資料(スライドやハンズオン資料)などは原則として公開しています。本稿、および私が公開している資料たちが、研究室運営に悩む新任PIの方の参考になれば幸いです。